木曽路の宿場町を歩いていると、香ばしい味噌だれの香りに誘われることがあります。その香りの正体の多くは「五平餅(ごへいもち)」です。木曽をはじめ中部地方の山間部で古くから親しまれてきた郷土料理で、木曽観光の定番グルメのひとつです。

おにぎりに似ているのに、味はまったく違う理由

五平餅は、うるち米を半つきにして串に刺し、味噌や醤油ベースのたれを塗って焼いた料理です。おにぎりのような見た目ですが、餅のようなもちもちとした食感と、香ばしく焼けたたれの風味が特徴です。

もち米ではなく、うるち米(普段の食事で炊く米と同じ種類)を使うのが特徴で、これが五平餅ならではの、もちとご飯の中間のような独特の食感を生み出しています。米を潰しすぎず粒感を残すことで、香ばしく焼き上げたときに表面がカリッと、中はふっくらと仕上がります。

地域によって形状(小判型、団子型、わらじ型など)やたれの味付けが異なり、木曽路の中でも店によって個性があります。木曽福島周辺では小判型が多いなど、地域ごとの違いを食べ比べてみるのも楽しみ方のひとつです。

「御幣」に似ているから、それとも「五平」さんの名前?

名前の由来にはいくつかの説があり、「御幣(ごへい)」という神事に使う道具の形に似ていることに由来する説や、「五平」という人物が作り始めたという説などが伝わっています。御幣とは、白い紙を細長く切って垂らした、神社のお祓いなどで見かける祭具のことで、五平餅の平たい形状が確かにこの御幣に似ています。

はっきりとした定説はなく、地域ごとに伝承が異なるのも郷土料理らしい面白さです。木曽路を旅する中で、地元の方に由来を尋ねてみると、また違った話を聞けるかもしれません。

味噌、くるみ、山椒。たれで店の個性がわかる

木曽路の宿場町や道の駅などでは、その場で焼き上げた五平餅を販売しているお店が多くあります。香ばしい匂いとともに、その場で味わえるのも魅力のひとつです。

くるみ入りのたれや、山椒を効かせたたれなど、店によってたれのバリエーションもさまざまなので、食べ比べてみるのもおすすめです。くるみだれは、すりつぶしたくるみの豊かな風味と甘みが味噌だれに加わり、コクのある味わいになります。地域によっては、ごまだれやえごまだれを使う店もあります。

山仕事の合間に食べる、腹持ちのいい携行食だった

五平餅はもともと、山仕事の合間の携行食や、農作業後のごちそうとして各家庭で作られてきた歴史があります。おにぎりよりも腹持ちがよく、味噌だれをつけて焼くことで日持ちもしやすかったため、山間部の暮らしに合った食べ物として広まったと考えられています。

今でも木曽の家庭では、季節の行事などで五平餅を作る文化が残っているところもあります。地域のお祭りや集会で、住民が協力して五平餅を焼いて振る舞う光景も、木曽路ならではの風景のひとつです。

秋祭りの夜、炭火で焼かれる匂い

木曽路の一部の地域では、秋祭りなどの行事の際に五平餅が振る舞われる習慣が残っています。地域の集会所や神社の境内で、炭火で香ばしく焼かれる五平餅の匂いが漂う光景は、木曽の暮らしに根付いた食文化を感じさせてくれます。

観光で訪れる際にこうした行事に出会えるとは限りませんが、道の駅や宿場町の売店では通年で味わえることが多いので、木曽路を訪れた際にはぜひ探してみてください。

一本で満足しないための、食べ比べのすすめ

  • 焼きたてを選ぶ: 注文を受けてから焼く店では、香ばしさと温かさを一番楽しめます
  • たれの違いを比べる: 店ごとに味噌・醤油・くるみなど配合が異なるので、複数の店で食べ比べるのもおすすめです
  • 串のまま持ち歩ける: 観光地での食べ歩きグルメとして手軽なのも魅力です

まとめ

五平餅は、木曽の暮らしと密接に結びついた郷土の味です。山仕事の携行食としての実用性と、行事で振る舞われるハレの食としての側面、両方を併せ持つ料理でもあります。宿場町を歩きながら、香ばしい匂いに誘われて一本つまんでみるのも、木曽旅行の楽しみ方のひとつです。